イロドリの小林です。
先日、阪急三番街で実施した「インバウンド向け体験ツアー」についてのレポート記事をアップしたところ、たくさんの反響をいただきありがとうございます。
こういった反応を見てもインバウンド業界で“コト消費”や“体験”といったキーワードへの注目度の高さが分かりますね。
ちなみに阪急三番街で実施したインバウンド向け体験ツアーでは、4日間で合計8回のツアーに約70名近くの方々にご参加いただくことができました。
それだけを見ればイベントとしては十分に成功と言えるのですが、そこで満足してしまっていては次のステップに進むことができません。
それに「体験系のサービスを考えているけど企画はもちろん、PRや集客面で悩んでいる」という方も多いかと思います。
そこで今回はこの企画を成功させるためにやったことと、同時に見えた課題をまとめてみました。
体験ツアーやイベントの企画をお考えの方はぜひ参考にしていただければと思います!
企画段階の4つのステップ
まずは企画からです。
最初のお打ち合わせは今年の4月まで遡ります。
阪急三番街さんと企画制作会社の株式会社ソラリスさんと弊社での打ち合わせがスタート。
そこから企画ができるまでのステップをまとめるとこんな感じです。
STEP1. まずは現状分析をする
まずは阪急三番街の現状を整理するところからスタートです。
過去に阪急阪神ビルマネジメント株式会社さんが阪急三番街を訪問したインバウンド客に対して実施したアンケートや調査結果を元に、
<阪急三番街の現状分析>
・韓国人がもっとも多い
・台湾人も多いが韓国人とは大きな開きがある
・女性客の比率が高い
・関空IN、関空OUTの人が多い
・韓国人はゲストハウスの利用率が高い
・団体ツアー客はほとんどおらず、FIT(個人旅行客)が圧倒的に多い
・インバウンド客に人気のお店がいくつかある
など、現場に携わっていなければ分からない情報やデータを分かりやすくまとめて共有していただきました。
そのおかげで自ずと論点もハッキリしてきます。
例えば、
<議論のポイント>
・FIT(個人旅行客)を狙うべき
・女性をターゲットにすべき
・もっとも多い韓国人をターゲットにするか?
・もしくは台湾やその他の国をターゲットにするか?
など、実データに基づいたブレストや意見交換に繋がっていきました。
STEP2. 強みや特徴を整理する
現状が把握できたら続いては「阪急三番街としての強みや特徴」を整理していきます。
<阪急三番街の強みや特徴>
・約260店舗もある規模の大きさ
・いろんなジャンルのお店があるバラエティーの豊富さ
・意外とたくさんあるフォトスポット
・和菓子や抹茶グルメなど“日本らしい食”の豊富さ
・キャラクター系レストランやショップの豊富さ
・大阪人でも迷うほどの迷路レベルの高さ
・ショッピングモールで突如出現するお地蔵さん
・突如現れる地下に流れる川
などが強みや特徴になります。
中には大阪にいる私でも知らないことがたくさんありました。
このように整理をして全体を眺めてみると、いろんな角度から企画を作ることができそうです。
STEP3. ターゲットを知る
しかし、まだここで急いで企画に入ってはいけません。
現状分析の結果、「今回のメインターゲットは阪急三番街に一番来ている韓国人観光客にしよう!」ということになりました。
そこで続いてはメインターゲットに対する定性的なリサーチです。
定量的なデータ分析はインターネット上でいくらでも拾えますが、「実際の声」までは拾うことができません。
実際に「インバウンド向け商品やサービスを作る」と意気込んだは良いものの、日本人だけで集まって企画を進めた結果、まったく誰からも必要とされないものが生み出されてしまった例はいくつもあります。
それは単なる日本人による「押しつけ」に過ぎません。
そこで今回は日本在住の韓国人留学生に協力してもらいました。
彼らから直接話を聞いたり、議論の中で新たに出てきた疑問をインターネットで調べてもらったり本国にいる家族、友人にヒアリングしてもらったことで、様々なことが分かってきました。
これは完全に余談になりますが「韓国で雨が降ったらチヂミを食べてマッコリを飲む」という謎の習慣にはビックリしました(笑)
「え? それはナゼ?」と聞いても「うーん……これと言って理由はないですね。そういうモノなので」という回答がさらに興味深かったです^^;
STEP4. 企画を作る
定性的なヒアリングによってターゲットの理解が深まったので、ここでやっと具体的な企画に入って行きます。
韓国人留学生にも同席してもらって、みんなで「あーでもないこーでもない」と言いながら企画を作り上げて行きます。
抹茶体験ツアーは割と早い段階で決まったのですが、もう1つのツアーが悩みました。
最初はフォトスポット案内ツアーや居酒屋ツアーなどの方向で話が進んでいたのですが、阪急阪神ビルマネジメントの担当者さんから「もっと“人気のランチがおトクに食べれる!” みたいな直接的なメリット提供の方が喜んでもらえるような気がするんですけどどうでしょう?」という提案をいただき、「それ良いですね! それで行きましょう!」ということで内容が固まって行きました。
PR施策の5つのステップ
今回のメインターゲットは韓国人観光客ですが、もっと大きなカテゴリで言うと「FIT(個人旅行客)」です。
大阪は全国的に見てもインバウンドの多いエリアですが、実は梅田にはバスの停車可能場所が少ないなどの理由もあって団体旅行客が来ることはほとんどありません。
したがって、梅田周辺で見かける観光客はほとんどがFITです。
つまり、今回は「FIT向けのPR施策を設計する」ということが求められました。
STEP5. FIT向けの冊子を作る
まずは冊子の構成からです。
冊子はツアーの情報はもちろんですが、それ以外にも阪急三番街内にあるお店やクーポンなどの情報を掲載することで「阪急三番街を楽しんでもらうこと」を目的に制作しました。
そこで「FIT向けの冊子とは何だろう?」ということを考えました。
ちなみにFITの特徴としては、
<個人旅行客の特徴>
・団体旅行と違って時間の制約がない
・旅行スケジュールは自分たちで決められる
・スキマ時間がある
・行動範囲が広い
などが挙げられます。
多様性の高いFITへ訴求するためには「この時間はちょうど暇だから行ってみようかな?」と思ってもらえるような提案がカギになってきます。
そこで「約260店舗」という関西最大級の店舗数を軸に、そこに「時間」を掛け合わせた内容にすることにしました。
例えば実際の冊子で見てみると、
「明日の朝食はここで食べる?」の会話を誘う。
「今日のランチはここにしよっか」や「買い物で疲れたし、ちょっとここでお茶してく?」の会話を誘う。
「日本酒が飲めるって! 明日の夜にでも行ってみよっか」の会話を誘う。
この様に「必要なタイミングで必要な情報を提供する」ことで、彼らの行動の選択肢に入り込むことが狙いです。
また、表紙でもクーポンをアピールし、1ページ目に見開きでクーポン一覧を掲載することで利用率のアップを狙います。
それ以外にも雑貨やキャラクターグッズショップ、アパレルショップなど、インバウンドの方々に人気のお店や商品に絞って訴求しました。
この辺りは経験豊富なソラリスさんが素晴らしいデザインに仕上げてくれました。
さすがですね。
冊子に掲載されているクーポンの利用期限が9月末までなので実際の集計はそれ以降になりますが、現時点でも配布率はかなり高いそうです。
STEP6. FIT向けの冊子配布場所を考える
せっかく良い冊子ができても配布場所を間違えば意味がありません。
今回はターゲットに広くリーチできる場所を抑えることを心がけました。
<今回の冊子の配布場所>
・阪急三番街の館内
・関西国際空港のインフォメーションカウンター
・阪急ツーリストセンター
・大阪市内のゲストハウス
・民泊オーナーさんの家
などが主な配布場所です。
館内は当然ですが、関空やツーリストセンターも観光客に広く訴求するためにはマストスポットです。
そして「FIT向け」という点ではゲストハウスや民泊オーナーさんの家に冊子を置いてもらったというのが1つのポイントとして挙げられます。
実際にゲストハウスや民泊オーナーさんに冊子設置のお願いをしてきたのですが、皆さん好意的でとても嬉しかったです。
「こういう情報はみんな喜ぶと思います!」「文化体験できて良いですね!」「すぐ無くなりそうなのでもっと貰えますか?」など、嬉しいお声をたくさんいただくことができました。
STEP7. Facebookページを活用する
今回の体験ツアーはFIT向けということもあり、Facebookページを活用しました。
と言っても、リソースが無限にある訳ではないため今回はイベントページ作成して拡散するという方法を取りました。
言語ごとのFacebookページを立ち上げて運用することまではできなかったですが、民泊オーナーさんや外国人の友人を持つ人に向けての情報発信やインバウンド旅行者に対する情報発信をしていきます。
STEP8. Facebook広告で超効率の良いPRをする
まず初めに人海戦術で民泊オーナーさんや知人にイベントページのPRをしたことで、ありがたいことに皆さんが「興味あり」ボタンをクリックしたりシェアしてくれたため、予想以上にリーチ数を伸ばすことができました。
しかし、オーガニックだけで伸ばせるリーチ数には限界がありますし、そもそも日本へ旅行に来ている人にリーチできなければ集客には結びつきません。
そこでフル活用したのがFacebook広告です。
今回は詳細な説明は省略しますが、Facebook広告を活用すればかなり効率良く日本を旅行している人たちに向けてPRすることができます。
なぜならFacebook広告では「この地域を旅行している人」というターゲティングができるからです。
これでエリアを絞り、さらに言語を絞ることで「大阪を旅行中で韓国語を話す人」だけにPRができるのです。
そして各言語ごとに画像やテキストを作成して広告を打ちます。
詳細な数字は公開できませんが、これによってリーチ数は一気に伸びました。
しかも関西を旅行中のユーザーだけに広告を表示するので、Facebookページやインフォメーションセンターに問い合わせが入るなど、確かな手応えも得られました。
FIT向けのPRであればFacebook広告はマストツールと言えそうです。
STEP9. その他のPRもやれることはすべてやる
その他にもできる限りのPRをしました。
<その他のPR施策>
・弊社が運営するインバウンド向けメディア「BATTERA」での情報掲載
・留学生情報サイトWA.SA.Bi.での情報掲載
・当サイトのメルマガ読者への情報配信
などです。
ちなみにメルマガでは大手新聞社の記者さんから取材に関するお問い合わせをいただくなど、注目してくださった方もおられたようでとても嬉しかったです。
※残念ながら取材については次回へ見送りとなりました。
以上の9つのSTEPで企画〜PRまでを進めて来ました。
当日の参加者からは嬉しい声がぞくぞく!
さて、こんなステップで準備をして来ていよいよ当日を迎えます。
しかし、ツアー当日にみんなで館内で直接の呼び込みもしたこともあり、最終的には約70名の方々にご参加いただけることとなりました。
振り返ってみると、この企画を何とか成功させることができたのは、常に「参加者を中心にして進めたこと」が一番の要因だと思います。
また、その甲斐あってか後に参加者の方々のアンケートを見てみるとツアーにとても満足いただけたことが分かり、本当に良かったです。
アンケートの内容も少しだけ抜粋してご紹介したいと思います。
<参加者さんからの嬉しいお声>
・非常に楽しく、素晴らしいツアーでした。(シンガポール)
・今回のイベントはとても良い企画でした。(香港)
・試食した和菓子をあとで買いたいと思います。(中国)
・留学生のスタッフさんがとても熱心に案内やお店紹介をしてくれて感謝しています。(中国)
・買い物できるいろんなお店を知ることができました! (台湾)
・とても楽しかった!(フランス&モーリシャス)
・今回のイベントはとても楽しくて完璧でした! こういうイベントをもっと開催すると良いと思います。(中国)
・抹茶がすごく美味しかった。ブログだけでは分からない魅力や特徴が分かった。(韓国)
・想像していたよりすごく良い体験でした。(韓国)
・抹茶の味だけでなく作法も学べました。今回の旅の良い想い出になりました。(中国)
・食べたことのないものを試食できたり、抹茶体験に挑戦できる素晴らしい機会でした! (アメリカ)
・ここには興味深いショップやレストランがあるので、また買い物や食事をしに来ます。(タイ)
たくさんの方にご参加いただき、日本や大阪、そして阪急三番街を深く体験していただけて本当に良かったです!
チャレンジしたからこそ見えた次なる課題
今回の企画は文字通り「チャレンジ」だったと思います。
しかし、「チャレンジした人にしか見えない景色」というものもあります。
その景色の1つが今回の企画を終えて見えた「新たな課題」です。
特に参加者の方々からの評価はとても高かったおかげで、冷静に課題を見つめることができたと思います。
1. 目的の再定義
まずはそもそも論になりますが、「目的の再定義」です。
これから先、インバウンド向けの施策をする上で「何のためにやるのか? をもっとハッキリさせるべき」 という話になりました。
それは「認知度の向上のためなのか」「売上UPのためなのか」 など、もっと目的をハッキリさせた上で今後の施策を考えることが求められます。
2. ターゲットをもっと知る
今回のメインターゲットは「韓国人観光客」でしたが、当初の期待より韓国人の参加者が獲得できませんでした。
館内で見かけるのは韓国人観光客が圧倒的に多かったのですが、すでに目的地や滞在中のスケジュールが決まっている人が多く、物理的に参加できないというのが1つの要因です。
なので、彼ら向けに企画をデザインするのであれば「自分たちのタイミングで楽しめるフリータイムの企画が合うのかも?」といった仮説も立てることができます。
ここはもっとターゲットに対するヒアリングやリサーチを徹底し、ニーズを掴むことが求められるでしょう。
3. PR施策の強化
今回の企画では限られた日程と予算の中でできる限りのPR施策をしましたが、まだまだできることはあります。
特にポイントとなるのは以下の2点です。
1. 日本に渡航する前のターゲットにどうリーチするか?
2. Facebookが利用できない中国本土の人たちにどうリーチするか?
今回は日本滞在中の人たちにリーチすることを重視しましたが、次はさらにもっと前段階の人たちにリーチすることで、旅程に組み込んでもらうことも考えなければいけません。
ただ、ここはコスト面との兼ね合いが重要になってきます。
また、中国本土の人たちはFacebookにアクセスできない上に、呼び込みを避ける傾向にあるので彼らにリーチする方法も考える必要があります。
4. 他にも課題はたくさん
課題をすべてまとめようと思ったのですが、たくさんあり過ぎてまとめきれませんでした……
・もっと定期的に開催できる企画が良いのでは?
・事前予約制にした方が良いのでは?でも、キャンセル問題をどうする?
・特定のお店だけに集中して仕掛けを作った方が良いのでは?
・そのお店の受入体制はどう作っていく?
などなど、話は尽きません。
ただ、これらの課題も「ポジティブな課題」であることは確かです。
あとは目的をしっかり定め、どの課題をクリアすべきなのかを選定し、解決策を見出すだけです。
※それが簡単ではないのですが……。
そしてその努力と工夫が実った時には、きっとたくさんの人たちが阪急三番街を楽しんでくれているはずです。
まとめ
今回は阪急三番街で実施した期間限定のインバウンド向け体験ツアーを成功させるためにやった9つのステップと新たに見えた課題についてご紹介しました。
この企画は「4日間限定」 ということもあり、「回数を重ねて徐々に認知度を高めて行く」という戦略が取れなかったのが大変でしたが、できる限りのことをやったことで結果的に参加者の方々から高評価をいただくことができ、新たなチャレンジとしては大成功だったと思います。
また、ツアー中の参加者の方々からの質問もとても興味深く、大変勉強になりました。
レポート記事でも一部ご紹介しましたが、
・どうしてお地蔵さんは赤い布をかけているの?
・ポン酢って何ですか?
・阪急三番街はなぜ「二」でも「四」でもなく「三番街」なんですか?
・この抹茶を点てるスタイルはいつから始まったんですか?
など、私たちが普段は気にしたこともなかった質問もあり、こちらが逆に勉強させてもらったくらいです。
これはまだまだ定着はしていない言葉なのですが、インバウンド消費をキッカケに私たち日本人が日本の文化や歴史、観光地や商品を再評価することを「リ・バウンド」なんて言ったりもするそうです。
確かに大阪では梅田スカイビルをはじめ、インバウンドをキッカケに改めて日本人から注目や評価が高まった事例は全国でもたくさんありますよね。
実際に私たちもこの企画を通して阪急三番街や大阪、そして日本の魅力を改めて知ることができました。
これから日本全国でさらにこの波が広がれば私たち日本人にとっても“良い体験”がどんどん広がって行くでしょう。
そしてこの記事で紹介したことが、そんな“良い体験の輪”を作ろうとする人のお役に1つでも立てれば幸いです。
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