昨年は出張やプライベートで北は北海道から南は沖縄まで日本のいろんな場所へ行く機会があったのですが、かつては日本人しかいなかった場所でも普通に海外の人たちの姿を見ることが増えましたね。
その度に「インバウンドの波は本当に全国に広がっているんだなぁ」という再確認をすると同時に嬉しい気持ちになりました。
さて、そんな中、北海道のあるホテルで朝食を食べていたときの話です。
過去にそのホテルには何度か泊まったことがあったのですが、毎回たくさんの海外の宿泊客の姿を見かけていたので、レストランにいろんな国の人たちがいるのは不思議でも何でもありませんでした。
そして運良く(?)、前日から北海道は大雪で外は真っ白な雪景色。
普段は雪を見ることがないのでしょう。
彼らの朝食もそっちのけで雪景色を眺めたり写真を撮って大はしゃぎしている姿を見ていると、私も思わず笑みがこぼれてしまいました。
そしてその姿は「雪も立派な観光コンテンツ」だということを改めて私に教えてくれます。
特に私は長野県出身ということもあり、雪を見ると「嬉しい」というより「懐かしい」という感覚の方が強いので余計にそう感じるのだと思います。
すると、ある4人家族のお父さんが雪景色をバックに写真を撮りたかったようで、日本人スタッフさんに「写真を撮ってもらえますか?」と声をかけました。
子どもたちはキャッキャと喜んでいて、その姿を見るお父さんお母さんもとても嬉しそうです。
ところが写真撮影を頼まれたスタッフさんはニコリともせずスマホを受け取り、小さな声で「はい、チーズ」と1枚だけ写真を撮ってお父さんにスマホを渡しました。
お父さんはどんな写真が撮れたのか気になっていたようなので、特に気に留めている様子はありませんでしたが、第三者として見ていた私は「もうちょっと彼らの旅の楽しい想い出づくりをサポートしあげたら良いのに……」と、少し哀しい気持ちになりました。
もしかするとそのスタッフさんは極度の体調不良だったかもしれませんし、それ以外に何か原因があったのかもしれません。
しかし、その光景は私が次に北海道へ来たときに別のホテルを選ぶ理由にもなり得るものだったのです。
このように何気ない接客や対応が、当人はもちろん、その周りの人にも影響を与えてしまうことは大いにあります。
まさに「あなたの接客は見られている」のです。
留学生たちもしっかり見ている
先日、ある留学生グループとご飯を食べたときのことです。
注文を取りにきたウェイターさんが笑顔ひとつなく、こちらと目線を合わせることもなく、終始無表情でオーダーを取っていきました。
正直私はそこまで気に留めていなかったのですが、ウェイターさんが去ってから中国人留学生の女の子がポツリと言いました。
「あの接客はダメですね」
私はそれを聞いて彼女のその言葉の文脈が気になりました。
日本の高い接客レベルには価値がある
私が気になった文脈とは「彼女はいつから接客レベルを気にするようになったんだろう?」ということです。
それは中国に住んでいたときからなのか、日本に初めてきたときなのか、日本に住み始めてからなのか。
それを彼女に聞くと「旅行で日本に来たときや日本に住みはじめてから日本の接客レベルに感動したのがキッカケですが、一番は自分が接客をする側になったときでした」と教えてくれました。
それまではサービスを受ける側として日本の接客レベルに感動していたものの、「自分が同じことをやるのは恥ずかしい」という気持ちがあったそうです。
しかし、初めて飲食店でアルバイトをしたときに「自分もやらなければいけない」という状況に直面することになります。
そこで開き直って日本人スタッフと一緒に笑顔で「いらっしゃいませ〜!」と挨拶してみたところ、彼女にとっては思っていたよりも爽快感があったんだそうです。
そして、お客さんが喜んでくれる顔を見れたことで、接客の楽しさや素晴らしさに改めて気づいたそうです。
「その経験があるからこそ今では他人の接客が嫌でも気になってしまうんです。そして印象の悪いお店には行く気がなくなってしまいます。やっぱり日本人のレベルの高い接客はスゴく価値のあるものだと思っているので」と話してくれました。
「留学生の彼女でも接客のそんな細かいところまで気にしているんだなぁ」と感心していると、他の留学生からも「それ分かる!」「私も!」と次々に声が上がり、接客についての意見交換が始まりました。
日本語で高圧的な言葉遣い
すると、ある韓国人の女の子がこんなエピソードを話してくれました。
彼女があるレストランに入ると隣のテーブルには中国人ファミリーらしき観光客がご飯を食べていたそうです。
するとテーブルに近づいてきた日本人の男性スタッフがテーブルのお皿を指差しながら「これもう食べないの!? もう下げるよ!?」とかなり高圧的な口調で伝えていたのを見たそうです。
もちろん日本語を話せない中国人ファミリーはポカーン。
ただ、明らかにフレンドリーではないその口調は理解できたようで、「自分が何か悪いことをしてしまったんだろうか?」という表情で、かなり慌てた様子だったそうです。
もちろん留学生の彼女は日本語が分かるのでとてもショックを受けたらしく、それ以来そのお店には一度も行っていないとのこと。
これは確かに嫌ですね。
日本人の私でもその光景を見たら行く気をなくしてしまうと思います。
また、彼女はさらに「そんな光景を見たお店は1つだけじゃなくて何店舗かあります」とも教えてくれました。
その話を聞いた他の留学生たちも「私も同じような接客を見たことある」と言います。
日本人にしか伝わらないコトバ
そして次は台湾人留学生の女性がこんなエピソードを話してくれました。
彼女があるお店で買い物をしていたときのこと。
そのお店はレジが一般用と免税用に別れていたので、留学生の彼女は一般用に並んでいたそうです。
すると免税用レジから日本人スタッフが台湾人観光客に対して大声で「パスポート出して! パスポート! 分かる!? パ・ス・ポート!」と怒鳴るように伝えていたそうです。
「パスポート」はあくまでも日本語特有の発音なので、台湾人には「Passport」と言ってあげなければ理解することができません。
どうして良いか分からずにオロオロする台湾人観光客を見かねた彼女は列を飛び出してパスポートを見せるよう伝えてあげたので事なきを得たそうですが、彼女にとってはとてもショックな出来事だったようです。
その話を聞いていたアメリカ人男性、インドネシア人女性が口を揃えて「日本語の“パスポート”で通じる国は日本だけですよね。免税専用レジを用意するなら写真を置いたり案内を書いたりしたら良いのに……」と核心をついたコメントを添えてくれました。
しかし、彼女たちは口を揃えてこうも付け加えました。
「まぁ、自分の国に比べたら日本の接客レベルははるかに高いですけどね(笑)」
彼女たちも日本での生活にすっかり慣れてしまっているので、自国に帰ると接客態度やゴミが落ちた道路、歩行者より車が優先される交通ルールなどにイライラすることも多々あるそうです。
「日本の接客は全体的にレベルが高い。だからこそ接客レベルの低いお店は余計に目立ってしまう」
というのが実情ではないでしょうか。
例えば日本人が利用するグルメ系のクチコミサイトを例にすると、いかに接客が重要なポイントなのかがよく分かってきます。
なぜなら低い点数のクチコミを読んでみると、接客に関する意見が圧倒的に目立つからです。
もちろんこれはグルメ系に限らず、旅館やホテル、美容系クチコミサイトでも同様です。
その本質は人間が誰しも「ちゃんと1人の大切な人間として扱ってもらいたい」という想いを持っているということでしょう。
それらの接客を第三者の立場で見たときに「自分もそう扱われるかもしれないからこのお店へは来ないようにしよう」と敬遠されてしまうのは致し方ないかもしれません。
なぜなら今や「良いお店」はたくさんあるからです。
そう考えると、オーナーやマネージャー、店長といった管理者の方々の立場からすると自分のお店のスタッフさんの接客レベルの引き上げはとても重要な課題ですね。
オーストラリアで出会った2人の青年
それでは「接客レベルが高い」とはどういうことなのでしょうか?
続いてはそんなことを考えていきたいと思います。
その前にひとつ質問をさせてください。
あなたが「(良い意味で)一番印象に残っている接客は?」と聞かれて思い出すのはどんなシーンでしょうか?
私はなぜかいつも新婚旅行で訪れたオーストラリアのケアンズにあるステーキレストランを思い出します。
私たちはハミルトン島という島全体がリゾートになっている場所でゆっくり過ごした後にケアンズという街へ移動しました。
するとリゾートから一気にオーストラリアの日常生活感のある街へと移ったので、多少のギャップも感じましたが、それはそれでとても楽しかったのを覚えています。
その日のディナーにステーキレストランへ行ったのですが、あいにく天気は大雨でテンションは少しダウン気味……。
そこで接客してくれたのがオーストラリア人の2人の青年でした。
大雨にも関わらず店内はお客さんでいっぱいだったので、彼らはとにかく忙しく注文を取ったり料理を運んだりしていました。
しかし、彼らは常に笑顔でお客さんと気さくに話していて、私たちにも「どう? 料理の味は口に合うかな?」と声を掛けてくれました。
「うん、美味しいよ!」と返したのですが、実際のところ味はちょっと微妙なんです ^^;
肉は硬くて味付けも大味なので、正直「これは絶品!」とは言えません。
ところが、彼らは私たちの近くを通る度に「このソースを付けて食べるのもオススメだよ!」「僕もいつか日本へ行ってみたいんだ」「この後はどこに行くの?」などと声をかけてくれたので、いつしか料理の味は二の次で彼らとのコミュニケーションを楽しむようになっていました。
そして記念写真を撮るために私がセルフィーで写真を撮ろうとすると、すぐさま青年の1人が来て「僕が写真を撮ってあげるよ!」と声を掛けてくれました。
そしてその青年にカメラを渡して写真を撮ってもらったのですが、写真を取り終えた青年がなぜか笑いだしたのです。
私たちが「何がそんなに面白いの?」という表情をしていると、彼が写真を見せてくれました。
すると私たちの背後にあるガラス越しにもう1人の青年が変顔をして写り込んでいたのです(笑)
変顔をしていた彼は「どう? 僕は上手く入ってた?」と無邪気な顔で確認しています。
その後に私たちのツーショットを撮ってもらいましたが、「この何でもないやり取り」は旅の中でも思い出深いヒトコマとなりました。
海外を旅していると、こんな「自然な接客」をたくさん体験しますよね。
日本では「神様かのように扱われる接客」が良い接客とされがちですが、「1人の大切な人間としてちゃんと扱われる接客」というものもあります。
そして、私の心に残った接客はどうやら後者だったようです。
はたして、あなたの想い出はどちらだったでしょうか?
人は“言葉”ではなく“心”を通わせたい
中国市場向けのビジネスをしている方で、中国の富裕層と繋がりのある方がこんなことを仰っていました。
「最近中国の富裕層の間で日本の高級ホテルの評判が悪い」
というのです。
その理由を聞いてみると、「その人たちがホテルに求めているのは日本の高級ホテルならではの思いやりだったり配慮といった接客サービスを受けることなんです。それなのに行ってみたらお世辞にも接客レベルが一流とは言えない中国人スタッフに“中国語が話せるから”という理由で接客されるのが不満みたいです」と教えてくれました。
これは「人は言葉よりも心を通わせることを求めている」ということがよく分かるエピソードのひとつと言えるのではないでしょうか。
あなたのお店の強みは何ですか?
星野リゾートの星野社長が「私の教科書のひとつ」と言う書籍の中に「競争優位を実現するファイブ・ウェイ・ポジショニング戦略」というものがあります。
ここで提唱されているのはビジネスにおいて独自のポジションを築くためには「1. 価格」「2. 商品」「3. アクセス」「4. サービス」「5. 経験価値」の5つの要素において、1つで市場支配をし、別の1つで差別化をし、残りの3つを業界水準(平均点)まで達成しなければならないというものです。
各要素は以下の基準で点数付けをします。
5点・・・市場を支配している(消費者が企業やお店を選び出す)
4点・・・差別化できている(消費者が企業やお店を好む)
3点・・・業界水準(業界標準)に達している
1点or2点・・・顧客から信頼されていない
要は5つの要素の中で5点を1つ、4点を1つ作り、残りは3点まで引き上げるという考え方です。
また、「5つすべてで満点を取ろうとすると失敗する」という警告も面白く、この本は私も大好きな一冊です。
ちなみに、これまで私が星野リゾートに関する書籍を読んだり、星野リゾートや星のやに宿泊した経験から見ると、おそらく星野リゾートは「経験価値」で市場支配をし、「サービス」で差別化を行い、その他を業界水準まで引き上げているのではないかと推測しています。
<星野リゾートの自己分析>
5点・・・星野リゾートでしか味わえない経験価値
4点・・・顧客視点で進化し続けるサービス
3点・・・メインターゲット層から見ると業界水準だと納得できる価格
3点・・・施設によっては一度経営破綻した施設(商品) ※「星のや」は商品を4点として設計されているかもしれません
3点・・・リゾートなので少し離れた場所にあるアクセス
といった感じではないでしょうか。
さて、これを冒頭で紹介した留学生たちが見た接客の話に当てはめてみると、そのお店は「サービス」が1点or2点になるので「顧客から信頼されていない状態」に陥ってしまっていることになります。
まさしく彼女たちはそのお店を信頼していませんでした。
また、その接客は顧客の「経験価値」の低下にも繋がるはずなので、ここも2点以下である可能性が高いことになります。
そうなると、いくら価格が安くて、料理が美味しくて、アクセスが良くても継続的にリピーターを獲得することは難しくなります。
※それに価格の安さと料理の美味しさや立地の良さは基本的には比例関係にないはずです。
ビジネスにおいて売上の構成は「新規客 × 客単価 × リピート率」で成り立っていますが、先の接客だとリピート率は落ちる上に追加注文の機会も減るはずなので、客単価も下がってしまいます。
そうなると新規客を集客し続けないといけない状況に追い込まれます。
例えばそこで新規客の波が途切れたらどうなるでしょうか?
インバウンドで言えば地震などの天災、政治における摩擦など、ある日突然何かが起こっても不思議ではありません。
その時に市場が縮小したことを理由に徹底するのか、それとも培った強みを活かして別の市場で勝負して生き残るのか。
その明暗を分けるのは「自分たちが提供しているサービスが顧客にとって本当に価値のあるものなのか?」という問いかけを続けられるかどうかなのかもしれません。
あなたのお店の最大の強みは何でしょうか? そしてその強みは市場の中で何点を取れているでしょうか?
その次の強みは何でしょうか? そしてその強みは競合を差別化できるほどの点数を取れているでしょうか?
そして残りの3つは業界水準に達しているでしょうか? そもそも業界水準がどのレベルなのか把握できているでしょうか?
お客さんは無意識の内にそれらを客観的な視点からシビアなジャッジをくだしています。
・私の大切なお金を費やす価値があるんだろうか?
・私の大切な時間を費やす価値があるんだろうか?
・私の大切な人を連れて行く価値があるんだろうか?
そこで「YES」と思ってもらえるようなお店や会社がさらに日本に増えると良いですよね。
私たちもそんなお店や会社づくりのサポートをして行きたいと思っています。
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